生まれ変わっても


学校からの帰り道でシゲと並んで歩いていると、俺たちの少し前方にどこからか一匹の猫が現れた。白と黒の、多分野良猫だろう。

「お、猫や」

チチ、と舌打ちしながらシゲが腕を伸ばしてそちらに近付いて行く。けれど、そこは野良猫らしく、一瞬俺たちを見据えては身を翻し向こうへ行ってしまった。

なんや、愛想無しやのー、なんてぼやく声がするが、愛想のいい野良猫もそんなに居ないと思う。

「そういやこの前、夢見た」

再び並んで歩きながら、シゲが思い出した風に言う。

「どんな?」
「俺な、生まれ変わって猫になっとった」
「ふーん」
「さすがシゲちゃんぽく、めっちゃ男前な猫やったな」

男前な猫ってどんなだよ、と突っ込みを入れずにはいられない。

「色は?金色か?」
「勿論や」

その答えに二人で笑う。こいつが猫になったとしたらその色で決まりだろう。

「たつぼんもその夢に出て来たんやけどー」

わざとらしく語尾を伸ばされ、ちらりと横目で見られる。何か言いたそうな顔で。

「なんだよ」
「夢ん中にたつぼんが居ったから、たつぼんやーん、って猫の俺がそっちに近付いてん。して、たつぼん、たつぼん、何回も呼んだんやけど俺が誰だか気付いてくれへんかった…」
「だって、お前猫だったんだろう。たつぼんって言えたのかよ」
「いや、確か心でたつぼん、口ではニャーニャー」
「それでどうやって気付けって言うんだよ…」
「やって俺とたつぼんの仲やで。どんな姿に変わろうとも、どんな口調になろうとも、気付いて当然やん」

愛の力で、なんて力を篭めて言われて、それはなんて言うメルヘンだ、と呆れて返す。

「しかも気付かない所か、俺は犬派だから、猫は好きじゃねぇんだ。あっち行け、シッシッ、なんて追い遣られる始末や。たつぼんの冷たい態度に泣いたな、あの時は」

人を夢の中に勝手に出しといて、冷たいとか言われても俺の知った事ではない。 勝手に泣いてろ、と言い放ってやると、やっぱりたつぼん、冷たい、と金髪は大袈裟に嘆く振りをした。

俺は確かに犬派だけれど、猫だって別に嫌いじゃない。自分の方に寄って来た猫を、邪険に追い遣るなんてしない。なのに、お前の中の俺のイメージってそんななのか。そんなに冷たい人間に映ってるのか。それはちょっと酷くないか。

そこまで思って、夢の中の話に何を真剣に反応してるんだ、と我に返る。嘆くのを止めたシゲが、何、しかめっ面しとんの?と聞いてきた。

「別に」
「あ、そ?ところで、本当に俺が猫に生まれ変わったとしたらな、そん時はたつぼん、ちゃんと気付いてな」
「気付いてな、って猫なんだろう。どうやって気付くんだよ。ってなんでそんなに生まれ変わりが猫だって事に固執してるんだよ」
「その夢見たのが、朝方でな。やけにリアリティあったし」

あれはきっと正夢やねん、とシゲが真面目な顔で古風な事を言った。

「それっぽい、男前の猫がたつぼんに近付いたら、それが俺やから」
「それだけじゃ分かんねぇ。それっぽい、で分かる筈ないだろ」
「そこはそれ。やっぱり愛の力で」

再びメルヘンな事を言い出す男に、いや、そんなのないから、とあっさりと言ってやる。たちまち聞こえるブーイングの声。たつぼんは氷の様に冷たい、と。

冷たくて結構。そもそもお前はさらりと言ってるけど、生まれ変わるって事はお前が死んでしまうと言う事だろ。そして俺が残されると言う事じゃないか。

そんな事は例え冗談でも考えるのは嫌だ。生まれ変わりの話なんかしなくてもいい。

だけど、ふと思った。お前が猫に生まれ変わると言うなら。シゲがシゲだと直ぐ分かる様に、俺も猫に生まれ変わってもいいかな。

そんな考えが一瞬でも湧いてしまった事を慌てて打ち消す。
何を有り得ない、恥かしい事を考えてるんだ、俺。

ぶるぶると頭を振ると、何やっとんの、たつぼん、と今のままでも充分、気紛れで掴み所のない猫みたいな金髪男が不思議そうに尋ねて来た。

恥かしい事を思い付かせた八つ当たりとばかりに、なんでもねぇ、と語気も荒く歩き出す。

なんやねん、と不服そうな声の持ち主をちらりと見遣る。そして思ってしまった。


生まれ変わりと言うのが本当にあるのなら、その時もやっぱりお前と過ごしたい。


終(2007/08/06)
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