Tシャツ
部活の練習がない休日。一人で近場のショッピングモールへと買い物に出掛けた。
前から買おうと思っていた好きな作家の新作推理小説をゲット。本屋を出た後、CDでも見に行こうか、それともスポーツショップでも冷やかしに行こうか。そんな事を思いながらぶらぶらと歩いていると一軒のカジュアルショップの前を通り掛る。展示されてる服を見て、新しいTシャツが欲しいな、とその店に足を運んだ。
Tシャツ売り場の方へ行き、目で見たり、手に取ったりしながらゆっくりと陳列棚の前を歩く。
『あ、これ』
ふと、棚にディスプレイされていた一枚のTシャツに目が止まった。手に取って広げてみる。白い生地に赤い文字のロゴ。それは自分の極身近に居る、金髪野郎が大好きな炭酸飲料のマークだ。
『これってシゲが好きかも』
その広げたTシャツを見ていると思わず笑顔になってしまった。慌てて口元を引き締める。一人で居るのににやけてしまって恥ずかしい。そしてこんなにあっさりとシゲの事を連想してしまって悔しい。
なんだかいつもあいつの事を考えている様で。
コーラが好きで、飲み物と言えばいつもそれのシゲ。あいつを構成している成分の中で、かなり大きな割合を締めているに違いない。
『またコーラかよ、好きだな、お前それ』
自販機で飲み物を買う時、多少は迷う自分とは違って、シゲはいつもまるで考えずに選択ボタンを押す。
『だって美味しいやん、これ。スカーっとするし』
『でもスポーツ選手の飲むもんじゃねぇだろ、それ』
『そ?自分の好きなもん飲むのが一番なん違う?そう言うたつぼんかてミルクティ大好きやん。やたらと甘ったるいし、あれ』
スポーツ選手の飲むもんやないやろ?とからかう様な表情で。
『俺はポカリとかも飲むし。お前みたいにそれ一筋じゃねぇし。…もうお前、中毒になってんじゃねぇ?』
お返し、とばかりにからかう口調で言ってやると、そうかもな、とシゲは屈託なく笑ってペットボトルを煽った。俺の好きな笑い方で。その後に、
『これってクセになり易いから。…たつぼんと一緒で』と付け加えられた意味深な一言には、何言ってんだ、と素っ気無く返した。熱くなった頬に気が付かれなかっただろうか。
飲み物と言えばいつもコーラを選ぶシゲ。もうあいつのトレードマークみたいなもんだから、そのロゴを見るとシゲを思い浮かべても無理はない、と自分に言い聞かせる。コーラジャンキーの金髪のあいつを。
休日で客で賑っている店内。ふと隣りを見ると彼氏用のTシャツを一緒に選んでいるカップルの姿があった。こっちがいいんじゃない、この色の方が好き、と楽しそうに会話しながら。
一人で買い物をするのは別に嫌じゃないけど、今ここにシゲが居たらいいのに、と思った。あいつと一緒に居るのは楽しいから。
シゲと洋服を選んだら、絶対に俺が選ばなさそうな派手な色合いのシャツを薦めるとか遣りかねないけど。たつぼん、これ似合やん、と笑いながら、目も眩むような原色や趣味の悪い絵柄のシャツを俺に当てて見せるとかやらかしそうだ。似合うで、と可笑しそうに笑う顔まで想像出来る。
カップルから視線を外し、シゲのトレードマークになっているロゴ入りTシャツを見詰めた。なんだかあいつの顔が見たくなってしまった。会いたくなってしまった。
一人で買い物するのは嫌じゃない。好きな所に自由に行けるし凄く気楽。でもそんな気楽さよりも、シゲと一緒に居る楽しさの方がいい。些細な事で笑い合える時間を共有出来る方がずっといい。Tシャツ選びはまた今度。シゲに付き合って貰おう、と思いながらシャツを棚に戻した。
今日はあいつは便利屋の仕事をやっている。夕方には終わると言っていた。もう少ししたら寺に行こう。あいつの顔を見に。あいつに会いに。あいつの好きな飲み物を差し入れに買って。コーラジャンキーのあいつの為に。
コーラジャンキーでサッカージャンキーのシゲ。そしてシゲが『水野竜也』ジャンキーだったらいいのに。本当に俺に『クセ』になってくれてたらいいのに。
だって、俺はいつでもこんなにあいつに会いたい。いつも、いつでもあいつの事を思っている、重度の『佐藤成樹』ジャンキーなんだから。
終(2006/08/01)