ソーダ水


学校帰りの通学路で。喉が乾いたから、なんか買ってこ、とのシゲの言葉に二人で自販機に寄って行く。

お、商品代わってる、と言って金髪が選んだのは、いつものコーラではなく緑のボトルのメロンソーダだった。シゲの寺の近くにあるこの自販機で、俺も時々買う。シゲが言う様に、置いてある品物が幾つか代わっているのが分かった。新し物好きのシゲが手を出さない筈がない。

「お前が選ぶのはいっつも炭酸なんだよな」
「やって、スカッとするやん。飲むなら炭酸に限る」

自分はあの強い刺激が苦手で飲むなら炭酸以外に限るので、オーソドックスにポカリのボタンを押した。

早速キャップを開けたシゲがその液体を喉に流し込む。よほど喉が乾いていたのかその勢いは清々しい程で、盛大に上下する喉仏が目に入る。長い一口を飲み終えたシゲが、うまー、と全開の笑顔を見せた。

「やっぱ部活後の一本は格別やな。結構イケルし、このソーダ…、って、何笑ってんねん、たつぼん」
「あ、いや。お前、本当に美味そうに飲むなって思って。今、すげー満足そうな顔してたぞ」

大好きな物を食べてる子供みたいに。いや、風呂上りにビールを飲んでる親父か。 どちらにしても笑える。

「やって思いっきし喉乾いてたし。めっちゃ体が水分求めてたし。そういう時に摂る飲み物って最高やん。こう、カーっと体中に染み渡っていく感じがして」
「まぁ、確かにそうだけど」

笑って言いながら、俺もポカリを飲み込んだ。シゲが言う様に、冷たい液体がカーっと体に流れて行く感覚が気持ちいい。

そして隣りには美味い飲み物に満足げな溜め息を吐く金髪。そんなシゲを見てると和むし、自分もなんだかちょっと嬉しいと思ってしまう。

あ、この感じって、前にシゲが言ってた----。

少し前に百合子が教えてくれた、チーズケーキが美味いという喫茶店にシゲに付き合ってもらって一緒に行った。そこのケーキは本当に美味くて俺の好みの味で、思わずぱくぱく食べてたら、たつぼん、ほんまに美味そうに食うなー、と笑いながら言われた。

『え、そうか?』
『うん、ニッコニコしながら食っとんでー』
『…嘘だろ?』
『ほんまやでー。あんまりたつぼんが幸せそうに食ってるから、見てるシゲちゃんまで幸せな気持ちになるわ』

言ったシゲがニコニコしてたけど、美味しい物を食べて幸せそうなんて、なんだか単に食い意地が張ってるヤツみたいじゃないか。そう思ったら恥かしくて、別に普通に食ってるけど、と無愛想に返した。
そう?と目を細めたシゲの笑顔が癪で、そうだよ、と大きめの一口を飲みこんだっけ。

あの時はからかわれただけと思ってたけど、シゲが言ってたのはこう言う感じだったのかな。お前が満足そうなら、俺も嬉しいし、お前が嬉しそうなら、俺も満足だし。お前が幸せそうなら、俺も幸せな気持ちになるし。

お互い、簡単な事で幸せな気持ちになれるな、とこっそり笑った。

「たつぼんも美味そうに飲んでるやん。やっぱ部活後の一本って、格別やろ?」

思いきり部活で走り回って、体は心地良く疲労して。乾いた喉を潤すのに、確かに部活後の一本は格別。

そして隣りにはシゲ。お前が一緒に居るだけで、飲み慣れたポカリも格別な物になる。

でもそんな事は言ってやらないで、そうだな、格別だな、と笑って返した。

お前が一緒に居るだけで、どんな時間も格別な物になる。


その後、シゲの部屋で交したキスの味は、いつものコーラの味じゃなくってメロンソーダの味でちょっとだけ新鮮だった。


終(2007/10/08)
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