プレゼントを君に


たつぼんと喧嘩をした。

最初はちょっとした言い合いだった筈だ。それが次第にエスカレートして仕舞いには二人共大声で怒鳴り合っていた。きっかけなんてほんの些細な一言。お互いにイライラしていたのが丁度ぶつかっただけだ。

性格も物の考え方もまるで違う俺たち。喧嘩なんてしょっちゅう、かと思いきや決してそう言うわけでもなく。たつぼん機嫌悪、と思ったら俺が適当に流したり、俺がたつぼんに絡む様な時は、たつぼんが相手にしなかったりと、意外と喧嘩まで発展する事は少なかった。
でも今回はお互いが流す事もかわす事もせず、全面戦争に突入。そしてお互いが歩み寄る事もなく、たつぼんと口をきかなくなって3日。現在に至る。

部活は取り敢えず出ているので、毎日顔は合わせる事になる。声も掛け合わず、視線も合わさないあの仏頂面と。それでも練習熱心なあのぼんの事、ボールを追いかけ部員たちに指示を出す姿はいつもと全く変わらない。その上カザなんかとはあんなに楽しそうに話しているくせに、こっちの方は見向きもしない。気にも掛けない。俺と喧嘩している事なんか、どうでもいい事なのか。気にしているのは、ちらちらと目で追ってるのは、俺だけか。
…ムカツク。

俺一人がムカツイタ気分のままでも、地球はきっちりと回っている。爽やかな朝は来る。

朝練仕様の起床時間に体は大分慣れたとはいえ、やっぱり眠い。大欠伸をかましつつ、この冷戦はいつまで続くんだろうと思いながらスニーカーの紐を結ぶ。ここで自分から折れるのは癪だ。かと言ってあのたつぼんが折れて来るとも思えない。となるとしばらくこの状態が続くんだろうと重い足取りで寺の境内から出ると、爽やかな朝の陽射しをバックに、爽やかさとはほど遠い様な表情を浮かべた人物が立っていた。

「…たつぼん?」

今、まさに頭の中で思っていた人物が目に前に現れて、非常にあせる。

「…はよ、シゲ」
「おはようさん、…ってどうしたん、たつぼん。こないな時間にこないな所に」

勿論たつぼんが朝、俺の寺に来るなんて初めての事だ。喧嘩の最中にされる初めての行為。まさかこんな朝早くから決別宣言でも、しに来たのか?そんな不吉な考えが、なんともバツの悪そうな顔をして立っているたつぼんを見ていると浮かんできた。
けれど。

「これ、お前に渡そうと思って…」

ゆっくりと差し出された包み。某有名百貨店のロゴ入りの包装紙で、小さな赤いリボンまで付いている。

何?と更に疑問を深くしながらそれを一応受け取ると、ぼそり、と「誕生日、おめでとう」の声が聞こえた。

え?と思いながら、その包みとたつぼんの顔を交互に見る。あ、そう言えば、今日って。

「お前、ひょっとして、…忘れてる、のか?」

俺の様子に気付いて、たつぼんが呆れた声を出した。今日は、7月8日。自分の誕生日だった。

「…すっかり、忘れてたわ。あー、そう言えば、そやった」

渡された包みをもう一度しげしげと見遣る。と、言う事はわざわざたつぼんが俺のお迎えに来た理由はそれを言う為に?プレゼントを渡す為に?

「え?これたつぼんから?俺に?」
「当たり前だろ。他に誰がいるんだよ」
「ほんまに?たつぼんから誕生日プレゼント?わー、おおきに。めっちゃ嬉しい」

ここで初めて、たつぼんは少しだけ照れた様に笑った。

「中開けて見てええ?」
「いいよ、…あんま高いものは買えなかったんだけど」

包みのテープをゆっくりと剥して中の物を出す。こんなにわくわくしながらプレゼントの包装紙を開けるのは、いつ以来だろう。中から出て来たのは、赤いバンダナ。鮮やかな彩色に派手な模様。たつぼん本人には決して選ぶ事のない様な一品だ。でも俺はこういうのがめっちゃ好み。

「お、いい感じのデザインやん。今日部活で、早速使わせて貰いますわ」

思わず弾んだ声が出た俺に、たつぼんはさっきの笑いよりももっと深い笑みを浮かべた。

頂戴したプレゼントをバッグに入れて、二人で一緒に歩き出す。朝の光が茶色の髪に綺麗に反射している。あぁ、今日の陽射しはこんなにも眩しかったんだ、なんて事を改めて実感する。

「たつぼんがわざわざ朝一でプレゼントくれるなんて、思ってもみなかったわー。シゲちゃん、めっちゃ感激しとるで」

浮き浮き顔の俺に対してたつぼんはちょっと渋い表情を浮かべた。それでも、如何にも不本意とばかりにぼそぼそと口を開く。

「…お前、どうせ女子からプレゼント沢山貰うんだろうし。俺のなんて大したもんじゃないから、どうせ紛れちまうだろ」

だからせめて一番最初におめでとうくらいは言いたいじゃねぇか、と付け加えた言葉はやけに小さかったけど、それでもしっかりと俺の耳には届いた。

そう言えば去年は女子から結構な量のプレゼントを貰ったんだっけ、と一年前の今日の映像を思い浮かべる。

「なーに言ってんの。誰から何を貰おうともたつぼんからの贈り物が一番やで。貰ろて一番嬉しいに決まっとるやないか」

俺の言葉にばーか、と言ったその声にはそっけなさと、でも嬉しさが隠し切れない響きが読み取れて。そう言われたら、関西人にばかは禁句やって言ってるやろ、と突っ込まずにはいられない。そんないつもの遣り取りも、たった数日振りなんだけどひどく久し振りの様な気がする。そしてそれがひどく心地良い。

「…それにせっかくのお前の誕生日なのに、喧嘩したままってなんか嫌じゃん。誕生日って一番めでたい日なのにさ」
「…やな」
「…お前と話せなくって、つまんなかったしさ」

ぼそぼそ口調を更にぼそぼそとさせて、最後の方はほとんど呟き声だった。でもそれもしっかりと耳に届きましたから。

「わー、たつぼん、可愛い事言うやんか。俺と話せなくってめっちゃ淋しいなんて。シゲちゃん、又々感激」
「あ?お前人の話ちゃんと聞けよ。淋しいじゃなくって、つまんないって言ったろ」
「まぁ、そないに照れんと」
「照れてねぇし」
「俺は淋しかったで」
「…え?」
「俺はたつぼんと話出来んで、めっちゃ淋しかった」

そう、たつぼんと話せなかったのはたった3日。その間、いらいらして、物足りなくって、もやもやして、そして淋しかった。あまりにも自分の日常の中に、深く浸透している水野竜也と言う存在。その事実をここ数日で、改めて知った。

「嘘付けよ。お前なんて、全然平気そうだったじゃねぇか。普通にサッカーやってるし、高井やサンタと楽しそうにじゃれてるし」

俺の事なんか、気にもしていなかったくせに。

つっけんどんな口調で、たつぼんがぷいっと視線を逸らす。その拗ねた横顔を見ながら、可笑しくもくすぐったい思いが込み上げて来る。なんだ、俺ら同じ事考えてた?お互いが楽しそうにしてるのを、暗い気持ちで見てた?気にしてるの、自分だけって思ってた?

「…何笑ってんだよ、シゲ」

何時の間にか広がってしまった笑いにたつぼんが怪訝そうに声を掛ける。

「全然平気じゃなかったで。めっちゃ淋しかった」
「…嘘付け」
「ほんま、ほんま、ほんまやって。でも、嬉しいなー。愛しのたつぼんが俺の誕生日を覚えててくれて、プレゼントまで貰ろて。最高の気分やね」

大袈裟なヤツ、とたつぼんがそれでも嬉しそうな、可愛らしい笑顔を見せた。人に向って笑っているのを見るのではなく、俺に向って笑った顔。あぁ、めっちゃ嬉しい。

大袈裟じゃないで、たつぼん。
意地っ張りの自分が折れてくれて。
俺の生まれた日を祝ってくれて。
俺に向って飛び切りの笑顔を見せてくれて。

それらが全て、特上に最高のプレゼント。

終(2005/07/08)
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