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オレンジ
部活の帰り道、練習で疲れた体を抱えてシゲと二人、通い慣れた道を歩く。陽は西に傾いて今日1日の名残の光が辺り一面を染めている。
そのオレンジ色の中、二人でゆっくりと歩いた。
さっきから二人の口から出るのは、「疲れた」だの「腹減った」だの会話に結び付かない単語の切れっぱしばかり。会話らしい会話もないまま、二人を沈黙が包む。
でもこいつとなら沈黙が重くないから。
だから無理に言葉を捻り出す必要もないままに、思い思いの思考の中で歩いていく。
普段から明るいシゲの髪が夕日に照らされて、その明るさを更に増している。綺麗だな、なんて柄にもない事を思えばそれをしっかりと見ていたくって、歩調を緩めてシゲの少し後ろに下がった。
そう言えばこいつの後ろ姿なんてじっくり見る事なんてなかったかも、なんて思いながら。
するときらきらと陽の光が反射する髪の毛と一緒に、自分よりもちょっとだけ高い身長や、しっかりした背中や肩幅なんかも目に入って来て、なんとなくムカツク。
背中を丸めて歩いていたシゲがふいに小さな小石をこつんと蹴った。小さな子供がするみたいに。
時々シゲは凄く大人の顔を見せる。自分では手が届かない所にいる様で、不安になる程に。
そして時々は凄く子供で。今のシゲは久し振りに見られた子供の様なシゲで、嬉しくて笑いが洩れた。
「…何、笑っとんの?たつぼん」
「別に。何でもねぇよ」
立ち止まって顔だけ振り返ったシゲにそっけなく返す。
お前が可愛いと思ったなんて、恥ずかしくて言えっこない。
「あー、たつぼん、思い出し笑い?なんかやらしーわー。たつぼんのえっち」
「誰がHだよ」
茶化す様にはやし立てるそいつに左ストレートを繰り出してやると、シゲは大袈裟に体を避けて後退った。
「たつぼんの乱暴もん」
「うるせぇ、だまれ」
更に左ジャブを2発程空打ちしてやると、両手を胸の所で広げて「いいパンチやん」と俺のこぶしを受け止める振りをして笑う。その笑顔がやっぱり子供のそれだったので、俺も一緒に笑った。
立ち止まって俺を待っているシゲの隣に並んで、二人で一緒に歩き出す。シゲの横顔もやっぱり綺麗なオレンジ色。
伸びている二人分の長い影。空気が、柔らかい。
「…綺麗な夕焼けやなぁ」
「…そうだな」
見上げた夕焼け空の鮮やかさに、少しだけ目を細めた。
二人とも空きっ腹を抱えて。疲れた体も抱えて。
本当ならさっさと家に帰ってゆっくりと休みたい所だ。それなのに二人して歩く速度がさっぱり上がらないのは。
自分は本来ならこんなダラダラした歩き方、好きじゃない。それなのにこんな風にゆっくりと歩いてしまうのは。
少しでも長く、シゲと二人きりの居心地のいいこの時間を共有していたいからだ。
「…明日も晴れだな」
少しでも長く、シゲと二人でこの綺麗な夕焼け空を見ていたいからだ。
「…そやな」
明日もまた、会えるのにな、シゲ。
終(2005/06/03)