きらきらひかる


シュワッ

隣でコーラのびんを開けた音が耳に届く。
芝生に腰掛けた自分たちの数十メートル先で、花火に興じる仲間たちの姿をぼんやりと眺めていた。
赤・青・黄色…数え切れないほどの色が弾け飛んで、夜の闇をまぶしいほど明るく、切ないほど刹那的に照らす。
ひたすら動き回った疲れと、芝生に転がったいくつかの酒の缶とビンで、日課のように夢中になってボールを蹴る、いつもと同じ河川敷は、日常から切り取られ、異世界に飛ばされたような高揚感に包まれていた。

「あんだけ動いといて元気やなー」

その声につられて視線をやると、コーラが流れ込むたびに微かに動く喉が目にとまった。

「…お前あれだけ酒飲んどいて、よくコーラなんか飲めるよな」
「そんな飲んでへんて」
スポーツマンやから。
「…うそつけ」

シゲの言うことはほどんどがごまかしだ。その笑顔も言葉も。自分が特別なんてことはない。
そう思っているくらいでちょうどいい。

「ひどいなぁ」

シゲが笑いながらこちらを向いたので、反対隣に置いておいたビンを手に取る。もう中身が殻なことはわかっていたけれど、口をあけてビンを逆さにする。少しだけ残っていた液体がポツポツと落ちてきた。
たった5%のアルコールでも、慣れない身体には強力だった。普段誰にも言えないように、わからないように、何重にもかけた鍵がゆるんで、思いつくままに、ただただ言葉を発し、それひとつひとつにしっかり返ってくるシゲの声が心地よくてうれしかった。普段なら触れもしないような、深い場所に届くような会話だった。
そして、普段は自分のことをほとんど口にしないシゲが、その心を時折見せてくれているような、そんな気がした。

誰もいない場所で、誰にも言えない、お互いだけにしか伝えない言葉を交わすように。

「たつぼん」
「なに?」

シュワーッ
パチパチパチ

しっかり目があった。あんなにいろいろ話していたのに、シゲの目を真っ直ぐに見たのは今日初めてだった。
ひときわ大きな花火の光が届き、シゲの金髪を照らす。

夏も近いというのに、夜になると少し冷え込む。冷たい風が髪を揺らし、頬を冷やす。遠くから火薬の匂いと、仲間たちの笑い声が伝わる。

思い切り勢いをつけて立ち上がった。

「花火でもやろうぜ」

楽しみを見つけた子供のようにはしゃいだ声を出した。

「あんま興味ないし」
「ふたりでここにいるより楽しいって」

シゲの不機嫌そうな声は聞かなかった振りをして、一歩踏み出す。

自分の何かが言っていた。「これ以上ふたりでいてはいけない」
シゲは何も言わないのに、俺ばっかりあんなことを話して馬鹿みたいだ。
お決まりの台詞を自分自身に投げつける。

一歩一歩進んでいくと、腕を掴まれた。
『驚いて』心臓がドクンと鳴った。
力はそれほど入っておらず、振り払うことなど簡単なのに、手首に痛みを感じるほど強力なシゲの手の温かさがそうさせない。

「なに?」

俯いたまま訊いた。答えなど明白だった。けれど、どうしたらいいかわからずにそれだけ言った。
二人の場所に戻ってはいけない。けれど、シゲが何か言ったら戻ってしまうこともわかっていた。ただ、この手を離してほしくない。

「なんで?ふたりでおればええやん」

シゲの言葉は甘く響くけれど、その甘さを信じて飲み込んだ瞬間に苦味に変わることが怖かった。

「いいよ、もう。お前はどうせなんも言わないのに、俺ばっか自分のこと話して。なんか馬鹿みたいだし、お前もたのしくないだろ?」
どうせ酔っ払いの愚痴だし。

ごまかそうとしたら自然に顔が笑った。

でも、シゲは真剣な顔のまま、

「もっと話して」

一度だけ力を込めて腕を引いた。一歩、足が元の場所に戻る。

「もっと話したい」


***


「悪いわねー水野。結局、あんたたち全然花火やってないのに片付け手伝わせて」
「いいって別に」

花火のゴミをゴミ箱に捨てていると、小島有紀が駆け寄ってきた。その後ろからは、先程まで異様なほどのハイテンションで騒いでいた連中もやってくる。
河川敷は、夜の闇の中でいつもの姿に返っていた。

「そうそう、そういうことは部長やらしとけばええんやって」

カラカラと笑いながら、シゲも輪の中にいる。

「お前な…はやく缶拾ってこいよ!」
「な?!なんで俺やねん!」
「半分以上飲んだのお前だろ」
「ありえん…」
「あはは、残念だったわねー!」

小島や他の部員の笑い声に包まれながらぞろぞろと岐路につく。
そのなかで、もう夜の風で冷え切った手首だけが、ただひとつ、心を強く揺さぶり続けた。


end.


香野みず樹さまのサイト『SAHHL VARD』でキリを踏んで書いて頂いたキリリク小説です。リクは、『恋愛未満でお互いを意識し合うシゲタツ』でした。
二人の微妙な距離感とか、漂うどきどき感が堪らなく素敵です!皆の所へ行こうとするたつぼんの腕を掴むシーンが凄く好きです。甘酸っぱさと微かな切なさが感じられて…。
香野さま、こんな素敵なお話を書いて頂いて、ありがとうございました(2006/06/22)
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