ジレンマ・パートナー

 菓子業界の陰謀だ何だと噂されるこの日。それでも恋する乙女たちは真剣に想いを伝えるべく勇気をふりしぼるわけで。

「水野君。あの、これ…」
「え?あー、ありがと…」
 
恥ずかしいのか顔を俯かせたまま綺麗にラッピングされた包みを渡され、竜也は礼儀正しく礼を言って素直に受け取った。
 一人受け取るとまた一人、二人…と、竜也の周りには休憩時間毎に女子の入りが止まらない。みんな自分の選んだものを受け取ってもらおうと必死だ。
 桜上水でも一、二を争う竜也の人気は1年生から3年生にかけて範囲が広い。本人はあまり恋愛ごとに関心がないため何とも思っていないが、そのクールさが女子たちにウケるのだとか。
 朝からプレゼントを貰って竜也の鞄はプレゼントで埋め尽くされ、スポーツバッグも満杯になってしまった。去年の事を考えるとこういう事態は予想出来ていたので、竜也は鞄に入り切らなかったプレゼントを持ってきた紙袋に仕舞う。

「…はー、凄いね水野君。毎回こんななの?」
「まぁ、な。無碍に断るのも悪いし…」
「でもこんなに食べきれる?」
「んー、どうせ中身はチョコ系だろうから。いつも時間かけてなんとか食べてるよ」
「そうなんだ、人気あるのも大変なんだね。あ、そういえばシゲさんも凄い量貰ってたよ?」
 
ぴた…っと竜也の手が止まる。それは一瞬だけだったので風祭には気づかれなかったが、竜也は適当に話を合わせながらも内心はモヤモヤしていた。
 桜上水で一、二を争う竜也の人気。大抵争う立場になるのは同じ部活のチームメイトだ。
 成樹も竜也に負けず劣らずルックスが良く、頭は少々問題ありだがその分人当たりがいいので女子からも男子からも好かれている。成樹の場合は恋愛対象というより『友達付き合い』という意味で人気があるようだ。
 風祭のたった一言で考えないようにしていた事を考えてしまい、竜也は胸にモヤモヤとした気持ちを抱いてしまう。朝から校内で金色の頭を見かける度、必ずその周りには可愛い女子たちが群がって楽しそうにしていた。
 成樹がモテるのはわかるが仮にも付き合っている人間としての立場上、そんな場面を見てしまうのはかなり面白くない。くだらないとわかっていても妬いてしまうのはそれほど成樹の事が好きなのだという事に他ならない。

「はぁー」
「こんな日に何溜息吐いてんの?」
「…っ、おま、いつの間に…!?」
 
ぬっと現れた成樹の顔に大袈裟に驚いて竜也はずざざっと後ずさってしまう。いきなり現れた成樹に心臓がバクバクしていたが、それは成樹が持っている紙袋を見て鳴りやんだ。

「…凄いな、相変わらず」
「ん?あぁ、まぁな。シゲちゃんモテモテやから〜」
「そ…」
「ちゅーか、そちらはんも随分と景気えぇやないですかー。モテますねぇ、王子様は」
 
普段ならそんな軽口軽く受け流すが、今日ばかりは馬鹿にしたような成樹の口調に腹が立った。同時に中身が溢れそうなほど満杯の紙袋が竜也の神経を逆撫でする。

「……嬉しいか?」
「え?」
「こんなの、こんなの貰って嬉しいのかって訊いてんだよ。バレンタインなんて所詮菓子業界の陰謀だろ!?ヘラヘラにこにこして受け取りやがって、下心見え見えなんだよっ」
「ちょ…下心って何やねん」
「どーせお前は愛想振りまいて、また来年も貰おうとかそういう魂胆だろ?受け取ってヘラヘラしとけば、バレンタインじゃなくても誕生日とかたくさんプレゼント貰えそうだもんな。よかったじゃん、モテモテで」
 
はっと鼻で嘲るように笑って、竜也は移動教室の準備をする。完全に頭に血が上っている竜也はここが教室で周りの生徒が自分に注目している事や、成樹が右拳を握っている事に気づかず教室を後にした。

「はぁ、何やってんだろ俺…」
 
結局放課後の部活の時も、成樹とろくに会話もせず目も合わせなかった。人一倍気遣いの風祭は部活の間中『どうしたの?』と心配していたが、竜也はそれにも答える事は出来なかった。そして誰も居なくなった部室で竜也は激しい自己嫌悪に陥っている。
 冷静になった竜也は成樹に酷い事を、そしてプレゼントを渡してくれた女子たちに対しても酷い事を言ってしまったと反省した。けれど言ってしまった言葉は戻せず謝罪しようにも成樹とどうやって顔を合わせたらいいのかわからない。
 解決策が見つからず途方に暮れるしかない竜也は、真っ白な部誌を持ち鞄に入れて帰宅の用意を始めた。そこへガラッと部室のドアが開く。

「…っ…シ、ゲ」
「やっぱ、まだ居った…」
 
真冬だというのに額に薄ら汗を掻いている成樹は呼吸も少し荒い。帰っている途中で走って戻って来たのかと竜也は思う。

「…何、だよ。俺に用か?」
「お前以外に誰が居るん。ちゅーか自分、まだ怒ってんの?」
「べ、別に怒ってないし。何で俺が怒らなきゃ……」
「女の子らに嫉妬した、やろ」
 
核心を突いたその言葉に竜也の瞳が見開かれ咄嗟に俯いていた顔を上げる。目に映った成樹の表情は真剣で険しいものだった。

「な、んで俺が。自惚れんなよ」
「自惚れと違う。お前の事なんてすぐにわかる」
「意味わかんねぇ…そんなのお前の勝手な思い込み…」
「思い込み違うよ。俺も、同じやから…」
 
今まで真っ直ぐに竜也を見ていた成樹がふと俯いた。『同じだ』と言った成樹の意味がわからず竜也は眉根を寄せて首を傾げる。成樹の言葉は、思ってもいなかった言葉だった。

「…あのな、どこの世界に好きな奴がモテてヤキモキせん人間が居んねん。お前が朝から女子らにチョコ貰って、俺が何とも思わんとでも思ったか?」
「嘘…だってお前」
「悪かったな、演技上手くて」
 
珍しくぶっきら棒に言う成樹の顔は少し赤い。自分が嫉妬していた事を知られて照れているらしく、成樹は竜也から視線を逸らしたままだった。
 自分と同様成樹も嫉妬してくれていたのだと知ると、竜也も照れ臭くなり慌てて顔を俯けてしまう。暫く黙ったままお互い顔を俯けて沈黙が続き、それを破ったのは竜也だった。

「…その、昼間はごめん…言い過ぎた」
「……下心とか、かなり傷ついた」
「悪い、マジで……」
「…しゃーないから、チョコくれたら許したる」
 
幾分明るくなった成樹の声音に顔を上げれば、目の前には微笑みを浮かべたいつもの成樹が居た。それにホッと安心すると同時に竜也の頬も緩む。

「用意してないから、今から買いにいかないとあげられない」
「せやったら一緒に買いに行こうか。勿論、俺からのチョコも貰ってくれるんやろ?」
「…仕方ないから、一番最初に食べてやるよ」
 
クスクスと笑いながら自然と手を繋ぎ荷物を持って部室を後にする二人は、これから甘くて素敵な時間を過ごすに違いない……。

END

滋瑞晃さまのサイト『恋愛結婚日和』で、バレンタイン企画としてリクをして書いて頂きました。二人ともチョコは沢山貰うでしょうから、お互いの事がきっと気になりますよね。気になり過ぎてイライラしちゃう二人。可愛いなぁ、もう。結局はお互いが1番、と再認識する日でもある事でしょう。

滋瑞さま、素敵な企画に素敵なお話、本当にありがとうございました!幸せです…! (2009/02/21)

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